買取を確実に手にする方法
工場では、虫に食べられて穴が開いたり傷になって帰ってきた製品に対しては、「おまえ、かわいそうに。
こんなになってしまったんか?」などと声をかけながら、懸命にお直ししようと努力しているんですよ。
UTOの場合、お直しで帰ってきた製品は何百枚、何千枚のなかの1枚と違って、1枚1枚をお客さまの名前を知ったうえで作るので、製作時の状況はほとんど覚えています。
そのため、おおけさかもしれませんが、嫁に出した娘を気づかう心境なんです。
お戻しするときは、お直しができてもできなくても最善の手当てをして、製品にはきちんとプレスのアイロンをかけ、真新しい袋に入れてお戻ししています。
これも、自分たちが作った製品に対する愛情と何とかしたいというプライドの表れなんです。
糸が切れたときには引っ張らないで、ホツレが伝染しないように処置をしてからお直しを依頼したほうがいいと思います。
たまにホツレが広がらないようにと傷の部分をセロテープなどで張り付けてこられることがありますが、テープを剥がすときに糸にくっついて傷が広がることがありますので、色違いの糸などで印を付けていただいたほうが助かります。
修理用に何年か分の色の糸は少しずつ保存してあるんですが、たまたまピッタリ使ってしまってないときがあります。
でも、こういう色に限って、修理糸がほしいという連絡があるんですよね。
食害虫は繊細な繊維ほど「おいしい」と感じているようで、最高級ウールのカシミヤは最初にやられてしまう傾向にあります。
それこそ高いのから食べていくんです。
だから防虫は必ずやってくださいね。
「『空気』が暖かさの秘密」(37〜41頁)で、一般にウールのなかで最も軽くて暖かいのはカシミヤで、それは繊維の1本1本が細くて柔らかいからだとお話ししました。
とはいったものの、厳密には、カシミヤの毛より細い繊維をもつ動物がいるんです。
南米に「ビキューナ」、アジアに「チルー」ありその動物は、南米はアンデスの標高5000メートル以上の山岳地帯に棲む「ビキューナ」というアルパカの仲間です。
写真や映像でしか見たことがありませんが、角のない鹿の首を細くしてスマートにしたような、かわいい姿をしています。
毛は茶褐色で光沢があり、世界最高の滑らかな手触りの繊維だそうです(私は触ったことがありません)。
ちなみに、ビキューナの繊維の太吝は10〜18ミクロンで、長さは20〜50ミリとのことです。
ビキューナは非常に臆病で、家畜化できない稀少な野生動物。
今ではワシントン条約で国際的に保護されているので毛もほとんど採れません。
以前、某有名百貨店で数百万円のビキューナのスーツが売れたとか売れなかったとかいう噂を聞いたことがありますが、真意のほどはわかりません。
この頃では、極少量ですが、原住民であるインディオの人たちがペルー政府から特別に許可を受けて収穫して製品化されているものもあるようです。
とはいえ、一般のビジネスにはなっていないのが現状で、簡単に手に入るものではありません。
もう一種類、カシミヤより細い毛をもつ動物がいます。
それは「チルー」という動物です。
正式にはチベットアンテロープというカモシカの仲間で、細く長い角が特徴です。
一見、トムソンガゼルかと思うような姿をしています。
中国の天山やチベット高原、インドのラダック地方の3250〜5500メートルの高地に棲息しています。
このチルーのうぶ毛で作られるシヤトーシュという毛織物は「ウールの王様」とされ、大きなショールでも「指輪を通り抜ける」と言われるぐらい滑らかで「リングショール」と言われています。
インドでは何世紀もの問、マハラジヤなどの上流階級の結婚の持参物として珍重されていたそうです。
この毛は、チルーを殺して皮を剥いで採取するとのこと。
20世紀初頭には100万頭ぐらいいたのが、乱獲によって1995年には7万5000頭にまで激減して絶滅の危機にさらされているんです。
現在はワシントン条約でチルーの捕獲はもちろん、製品の取引も禁止されています。
カシミヤより高価なウールがあるらしい密漁と偏狭な所有欲に「喝!」2001年の毎日新聞に「ワシントン条約違反容疑で婦人服店代表を逮捕」というニュースが載っていました。
容疑者は逮捕の3ヵ月ほど前に、渋谷区代官山の店でシャトーシュと呼ばれる高級ショール2枚を80万円で販売したとのこと。
ワシントン条約違反容疑ですね。
シヤトーシュというショールは闇値で1枚40万〜150万円もするそうですが、稀少で貴重だからといって購入する者がいるから密漁が起こるんですね。
貧しい生活のうえとはいえ、密猟する者が悪いに決まっています。
しかしそれを買う者がいるというのも大きな問題でしょう。
しかも買う者は生活が苦しいからということもなく、ただ稀少で人が持っていないから欲しいという自己満足が目的。
ただの偏狭な所有欲茫と思います。
ビキューナもチルーも製品は織物で、さすがにセーターはないようですのでニットの話からはちょっとはずれますが、「カシミヤよりすごい織物」と言われると欲しくなる気持ちもわからないではありません。
とはいっても、購入することは犯罪になりますし、貴重な地球の財産を危機に追いやることに加担することにもなるので、決して関与しないように注意しましょう。
ちなみに、チルーはとっても俊敏で、最高時速80キロで走ることができるそうです。
この俊敏さと稀少さで、2010年の北京オリンピックではマスコットの一つにもなっています。
走るマスコットの「迎迎」はこのチルーです。
この業界に入って間もなくのことです。
その頃の展示会では、ほとんどのお店が「各型・各色・1枚」という発注の仕方をしていました。
そんななか、かなり異質な発注をするお店がありました。
そのお店は、12ゲージのラグランスリーブで襟開きのきれいなプルオーバーを、白10枚、赤5枚、茶5枚、黒30枚という別注のような発注をされるんです。
びっくりしました。
もちろん、その後は掛け率の話が待っていますが、そうなると要求に応えないわけにはいきません。
ハイリスクーハイリターンというのはよく理解できますから。
このお店の考え方を紹介します。
「売れ筋」を見つけるのではなく、「売り筋」をつくるそのお店は、県庁所在地でもない人口5万人ぐらいの普通の町にあります(もちろん今もあります)。
それなのに、どうしてそんなに商品を買い取れるのか、不思議に思いますよね。
なにせ、他のお店はほとんどが各色1枚の発注なんてすから。
お店にお伺いしたときにじっくりとお話を聞かせてもらいました。
「商品には何枚も売れる商品と1枚しか売ってはいけない商品があるんです」「売れる商品をいかにたくさん売るかが売り上げをつくるポイントなんです」「売れない商品はどんなにがんばってもなかなか売れるもんではないんです」このような観点から、枚数を張って注文したら、お店中のスカートやパンツなどと組み合わせて、お店の全員がその商品をどうやって販売していくのかを徹底的に研究するといいます。
もちろん、販売員さんには色ごとの枚数も頭に入れてもらい、その商品を販売することで自分たちのお給料が出ることを自覚してもらうのだといいます。
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